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人気上昇中の街は買いか?

三井健太
三井健太
三井健太コラム

少し前の週刊ダイヤモンドに、人気上昇中の街として「北千住、武蔵小杉、赤羽、武蔵小山」などが紹介されていたことがります。それぞれの街の特徴、人気の背景などが記事になっていました。

鉄板人気の街として、恵比寿、横浜、吉祥寺も紹介されていました。

SUUMOの「住みたい街ランキング」を覗くと、上位5駅あたりは、毎年顔ぶれが変わりませんが、何年か前には登場して来なかった街・駅が上位に現われることに気づきます。

街はマンション選びする上で重要な条件であり、手順は「街→マンション全体→住戸」と、筆者は優先順を主張しています。人気の街は、それだけ需要も多いので資産価値も維持できる、言い換えれば、リセールに苦労しないことも併せて主張しています。

資産価値とは換金価値でもあります。人気の街は高く売れると信じられます。現に、人気の上昇に伴って価格が上昇した街は枚挙にいとまがありません。

青天井で高くなる街?

研究熱心な人は、希望の街でなくとも都心の有名なマンション、または話題になっている大型マンションなどの価格についても詳しいようです。

坪単価で1千万円もするマンションの存在すらもご存知で、一体誰が買うのだろうと興味津々の野次馬になってモデルルームを見学に行く人もあります。

ともあれ、専有面積で150㎡を超える最上階のプレミアム住戸になると、坪単価は2千万円にもなり、総額で8億円とか9億円といった高額になります。3億円、4億円などの売出し住戸は富裕層にとって特別なものではないのかもしれません。

それだけ出して購入するからには、立地条件も買い手のステイタスにふさわしい高級住宅地に立地し、かつ建物のグレード感や風格、ブランドなど、あらゆる面で最高級マンションを目指します。作り手も、それを狙います。

そのような物件なら、1年に5人や10人の買い手は来てくれる。そう信じて、デベロッパーは土地を取得し、構想通りに建物を企画し、そして価格を設定するのです。

こうした高級・高額マンションを購入する人は、例外なく資産家であり、富裕層です。その階層は既にマイホームがあり、住まいに困っているとは思えません。マンションを買う動機が一般庶民と異なるわけではないものの、賃貸という選択肢も持ちませんし、候補地を広くして探すのではなく、かなり限定的です。

5年前だったら2億円だったかもしれない立地で、3億円になってしまった今、彼ら富裕層は驚きもせず、気に入れば買ってしまいます。来年売り出すマンションが近所にあったとして、その価格が4億円になっても買い手は現れます。

富裕層の購買動機には、「そこにマンションができたと知ってから発生する」ことが多いと言われます。今の家でも十分満足だが、気に入らないところもあって、リフォームという選択肢もあったが、たまたま近所で工事を始めた新築マンションが理想的だったので買うことにした。このような買い手もあるのです。

予算(資金調達力)別に階層化すればピラミッドの形になるのが普通です。例えば10億円、5億円、2億円、1億円などと分類すれば、底辺部ほど数が増えますが、頭頂部には一桁の数しかないかもしれません。

青天井と言えは極論ですが、どんなに高くなっても、その地なら買いたいという人は僅かながらいるのです。

人気の街なら少々の高値でも買ってくれる人がいる

一方、毎月のサラリーの中から返済するしかない庶民の資金調達力は、1年や2年で急に増えることはありません。従って、価格が急上昇してしまうと、購買力が足らずにドロップしてしまう人が増えます。

言い換えれば、需要が減少なくなるのです。発売マンション1,000に対して買い手が800か700かに減ってしまうということです。つまり、マンション価格の上昇は購買力とのミスマッチを起こし、売れ残りの大量発生という状況を招きます。

ところが、最近はサラリーマンでも1億円くらいまでなら届いてしまう新階層が台頭しています。夫婦ともに正規雇用のWインカム世帯、いわゆる「パワーカップル」です。

購買力を身に着けたサラリーマン家庭は、少し高いかなと感じながらも人気の街なら、値崩れすることもあるまいと信じて購入を決断するのです。

デベロッパーもこの需要階層を見逃さず、相場無視で高値のマンションを供給します。高額なので、建物にも工夫を凝らして納得感を抱いてもらおうとします。

最近数年の価格高騰は購入をためらわせ、買い手の数が減るという状況をもたらしています。慎重な購買態度となって、結論を出すのが遅くなるからです。

すなわち、契約率の低下となっています。売れ行きの悪化です。しかし、最近のマンション業者は、それでも「多少時間がかかっても売れる。なぜなら人気地域だから」と強気の姿勢を崩しません。

価格が頭打ちの武蔵小杉?

このような状況を見て、筆者は懸念を覚えるときがあります。

都心の高級住宅街なら、高くなっても売れる、人気地域なら少々上がっても買い手には困らないだろうという総論は正しいかもしれないが、各論になるとどうかと疑問を持つことが多いからです。

富裕層ほど厳しい選別眼を持っていること、一般サラリーマンでも資金力のあるエリート層ほど物件価値をよく吟味するものです。そのことは、作り手も知っているはずです。

しかるに、何故こんなレベルのマンションに甘んじるのか、そんな疑問を持つのです。

設備が何か足りない。フル装備ではあるがグレードはもうひとつ、デザイン性も悪くはないがどこか物足りない。

何より採光条件や眺望の悪い住戸を作る、さらには、魅力に乏しい間取りを作ってしまう売主に疑問を持つだけでなく、それを最後は価格の他住戸比較で安いと錯覚して買ってしまう買い手があることに違和感を覚えるからです。

作り手側の事情は分かります。致し方なく妥協の産物を送り出しているのです。理由はコストアップと用地難にあります。

矛盾すると思われるかもしれませんが、作り手は強気の姿勢を崩してはいませんが、虚勢を張っているだけで、ホンネでは売れ行きに不安を抱いています。

これ以上価格を上げたくないというラインを何とか守ろうとして様々に工夫を凝らし、苦肉の策として生み出した欠陥商品または未熟児とでもいうべき残念な物件なのです。

価格を上げたくない売り手の思いは、例えば人気の街「武蔵小杉」のデータを見ても何となく想像ができます。

武蔵小杉の新築マンションは2013年までは@280万円前後で、2014年に一気に@340万円に急騰しましたが、その後は2018年まで、ほぼ@340万円台で安定しています。しかし、最も新しい「サードアヴェニュー」(2020年6月竣工)は調査会社のデータによれば、@360万円台となっています。5%ほど高くなっているのです。

これをどう読むか、5年間安定していた価格が再び上がり出したという人もいますが、1物件だけでは断定できません。

駅に2分と近い上にイトーヨーカ堂の隣地でもあるから、この前に販売した「パークシティ武蔵小杉ザ・ガーデンタワーズWEST」は駅から6分で@330万円だから、サードアヴェニューが@360万円でもおかしくはない。そう考えて10%も上げた?

筆者は事業主がこのように考えたとは思いません。ホンネは、高値警戒感があって、駅には近いが同単価で売り出したかったはずと読みました。しかしながら、どう努力しても超えてしまった結果が@360万円なのです。確認をとったわけではありませんが、このように推察しています。

再開発で魅力高まる街のリセールバリュー

2年ほど前のこと、注目の再開発として首都圏各地の計画を紹介していた雑誌があります。都心では、品川田町エリア、虎の門エリア、春日・後楽園駅前、中野駅南口(ツインタワー計画)、池袋駅(区庁舎跡地開発)などを挙げていました。

再開発マンションは数多くの注目を集めます。再開発マンションは、立地条件が良く、建物も大規模で付加価値も豊富な優れたものだからですが、それだけではありません。

再開発=街がきれいになる=街の価値が上がる=そこのマンションを買えば資産価値は上がる=リセールのとき儲かる、このように感じるからです。

この思考経路に誤りはあるでしょうか? どこか落とし穴はないでしょうか?その点を考えてみます。

武蔵小杉も、短期間に人口が急増し、大きく発展した街です。綺麗に区画され、グランツリーをはじめとする商業施設も増えて住んで楽しい街に変貌しました。これらの経緯を見ていれば、街の価値は上がり、伴ってマンションの価値も上がったのは確かです。

しかし、坪単価@340万円になったところで客足は鈍り、売り手にも警戒感が生まれました。@360万円で販売したシティタワー武蔵小杉は竣工後3年でようやく完売したのです。

つまり、どんなに高くなっても買い手が無尽蔵に現れるわけはなく、武蔵小杉もこの辺りが天井だという業界の認識があるのでしょう。

しばらくの間は、これ以上高くなる期待は持てないのかもしれません。再開発マンションは、初期に買っていれば大変な儲けが出たかもしれないが、既に天井か、少し手前の段階で購入した場合は、大した利益は得られない。そう思った方が正しいのです。

マンションを自己居住目的で買う人は、第一義には「豊かなマンションライフが送れるかどうか」にあります。通勤や通学の問題、日当たりや眺望、便利な設備、使える共用施設の有無、維持管理に対する期待などが大事なので、そこが満足できるレベルにあればいいわけです。

そのためもあって、損をしなければいい程度に考える人が多いように思います。再開発マンションは既に高い。だから期待はできない。このように考えるのが正しいのです。

再開発でマンションの何が変わるの?

「高輪ゲートウエイ駅」は新駅として何もなかった所に突然駅舎とプラットフォームができて、駅前には新しいオフィスビルや商業施設などもできるのです。

これは、厳密には再開発とは言えないかもしれませんが、最も注目が集まるエリアのひとつです。品川駅~高輪ゲートウエイ駅~田町駅の近辺の既存マンションも注目され、価値が上がると期待されています。

品川駅もリニア新幹線の始発駅になるので、注目の駅です。

駅が新設されると、その周辺は変わる。これは間違いありません。現新幹線「のぞみ」より早いリニア新幹線、ルートも全く違いますから、リニア新幹線を利用して日帰りで東京に来る人も増えるでしょう。

それによって、ホテルや買い物施設、レストラン、アミューズメント施設などがますます増えて人が集まり、魅力的な品川エリアになるのでしょう。

すると、その近くに住みたい人が増えてマンション価格も上昇するというのです。また、短絡的に地価が上がるからマンション価格も当然のように上がると考えている人もいます。

中には、同じ品川区内というだけで、路線が異なる駅の物件に価格上昇を期待してしまう人もあります。しかしながら、その物件のある駅は全く変わらないのです。

再開発の予定も無論ありません。つまり、品川駅の大変貌、魅力アップがマンション価格に与える影響はほとんどないと断定してもいいほどです。

ズバリと言えば、品川駅の改造と高輪ゲートウエイ駅の開設でマンション価格が上がるのは、両駅から徒歩10分か15分圏だけです。それ以外は、期待しない方が良い。そのくらいに考えるべきです。

人気上昇中の街のマンションは既に高いのです。買っても大して儲からない。しかし、人気の街は将来の価値も高く維持されるので、けがはないのです。無理なく買えるなら、人気の街の高くなったマンションを買うという選択は悪くないことをお伝えして今日の結びとします。