古くなるほどに価値が上がるマンションと聞いてどんな姿を思い浮かべるでしょうか?答えの一例になるのが、少し前のテレビコマーシャルにあった「一生ものに住みたい」というキャッチフレーズ(三菱地所レジデンス)と言えそうです。
また、同社のどのマンションだったか忘れましたが、「洋服のように簡単に替えのきかないのが住まいであろう。貴方の人生を纏う住まいだからこそ、選び抜かれた生地で仕立てにこだわり着心地が良い、そんな住まいでありたい」という広告コピーがありました。
このコピーに触れた瞬間、筆者が連想したのは見えない所にこだわる職人のモノづくり姿勢でした。背広で言えば、何十工程も経て、体にフィットし、何度洗っても型崩れしない、そんなオーダースーツを想像します。背広だけではなく、注文から半年も待たされるような人気の手作りカバンや靴のイメージにも近いものです。
知人に、「高価でも良いものを買って長く使いたい」という考えの持ち主が何人かいます。「一生もの」というと大仰ですが、そのくらいの気持ちで品選びする人たちです。
マンションは買い替えることがあるだけに、次の買い手が喜んで買ってくれる・使ってくれるものでありたいものです。
三菱地所レジデンスは、長く愛される高い品質の建物を作っているとアピールしたいのでしょう。
三井不動産レジデンシャルも、「三井に住みたい」というキャッチフレーズでブランド力をアピールしていますが、同社のキャッチフレーズには「経年優化」というものもあります。
経年優化とは、建築や設備をハード面だけでとらえるならば、時が経つほどに劣化していきますが、三井の思想は「時の経過とともに魅力を深め、その価値を高めて行く住まいをつくる」にあります。それが経年優化の考え方のようです。
今日は、上記2社に限りませんが、古くなるほど味が出るマンション、無論、高い市場価値を併せ持つ、そんなマンションの実態について迫ろうと思います。
年月を経て劣化しないのは土地
このタイトルは誤解される可能性を心配しますが、適当な言葉が見つからないので、このまま使います。建物や設備は劣化しても土地は腐らないので劣化しないと言いたいのです。
マンションの価値は立地条件で決まる比重が大きいのです。郊外よりは都心の方が高い、駅から遠いより近い方が高い。どなたもご存知のことです。
少し詳しく述べておきましょう。
<マクロ的に>
①郊外よりは都心の街・駅が望ましい・・・・・東京都心でなくとも、横浜、大宮、八王子、立川、千葉といった比較的人口・経済規模の大きな都市も地元ニーズの多さに支えられ、比較的高い評価につながる。
②都心へ直結の幹線鉄道が望ましい・・・・・都心へ直接アクセスできる鉄道のこと。中央線・総武線などJR各線、新宿・渋谷などを起点にする私鉄の各線が良いのです。枝分れする路線・支線は避けたいもの。
③各駅停車より急行停車駅が望ましい・・・・・移動時間が短く便利である方を好む人は多い。
④駅力(えきりょく)の高い駅・街・・・・・駅を中心に買い物施設、エンターテイメント施設、個性的で多種多様なレストランやお洒落なカフェなどが豊富に出店していて、賑わいのある街、ただし風俗店はないことが望ましい。 リクルート社の「住みたい街・住んでみたい街ランキング」に登場するような人気の街が該当する
<ミクロでは>
①駅からの距離は徒歩5分以内が目安・・・・・傘なしで玄関まで到達できる駅直結が理想的。ただし、駅に近い場合、電車騒音、高層ビルの密集による開放感の欠如、日当たりの悪さなどがマイナス評価となることもあるので注意を要する。
現状は問題なくても、隣地が比較的規模の大きな駐車場であった りすると、近い将来、高層建物が建つ可能性がある。その可能性が誰にも気づかれてしまう立地は評価ダウンとなる。
②駅から徒歩10分は超えないことが重要であるが、稀に10分超でも許容できるとしたら、遠さを補って余りある長所を有する場合である。
例えば、アプローチが(理想はアーケード付きの)活気ある商店通りであることや、街路樹が整備された美しいシンボル的な通りであること、または到着したマンションの前が樹木の生い茂る大規模な公園になっているとかオーシャンビュー・リバービューが圧巻である、大規模なショッピングモールに隣接するといった場合に限られる。
緑豊かで閑静な住宅街の中という立地条件にあれば、言うまでもなく 利点・長所となるが、駅からの近さとは両立しないことが多い。上記のような圧巻のアプローチや眺望条件などを持たない場合、「優先されるのは駅近」の方になる。
③アプローチ道路は、車道より一段高くなった歩道付きが望ましいが、次がガードレール付き。白線のみの歩道は評価ダウンとなる。
④買い物便:大型スーパー、ホームセンターなどのほか、専門店が揃っていることが望ましい
⑤小学校までの距離が近いこと・・・・・通学路に危険な道がないかどうかがキーポイントになる。郊外のマンションによく見られるのは、小学校まで子供の足で30分もかかるという物件。広告表示は「大人の足で○○分」なので注意したい。
⑥高台か低地かも重要な評価要素・・・・・言うまでもなく高台が高評価となるが、その代わり坂道を上り下りしなければならないので、程度問題ではあるが、注意しなければならない。
植栽がもたらすバリューアップ
同じような立地条件のマンション同士では、建物の格差とピンポイントの環境が価格差を生みます。 地域内競争ということですが、この場合は、ピンポイントの立地条件(例えば隣が公園か、河川か、高速道路か、両脇が既存マンションか、工場かといった環境チェック)、及び建物価値が格差を生みます。
建物価値とは、豪華マンションか安物マンションか、ブランドマンションかノンブランドかといったことです。
マンション業界では「環境創造」という言葉がよく使われます。マンション開発がその地域の環境まで一変させてしまうことを意味しますが、大規模な開発によって、開発地域内に公園や広場などを設けて潤いのある空間を創り出すものです。
その中のアイテムとして、高木・中木・低木、草花があります。つまり、植栽です。
マンションの植栽には、次のような意義と効果があると言われます。
- 建物のデザインを引き立てる(植栽自体が外観デザインの一部)
- 無機質な建物に彩りを添える
- 建物の劣化を樹木の生長が補う(経年による価値の向上)
注目すべきは、3.の経年による価値の向上という部分です。この成功例を挙げると都区内では次の4つのマンションを真っ先に思い浮かべます。
※広尾ガーデンヒルズ
※パークシティ浜田山
※大川端リバーシティ
※芝浦アイランド
・・・首都圏を広く見渡せば、思い浮かぶマンションは他にもありますが、これらの共通点は「竣工から10年、20年を経て樹木が大きく成長し、春の見事な桜、初夏にかけて芽吹く新緑、秋に色づく紅葉など、住民だけでなく訪れる人々を魅了するものとなっている」ことです。
これはある意味でカモフラージュということになるのかもしれませんが、建物を樹木が覆うような姿を想像してみてください。
敷地内に植樹した木々が育つとマンションの形が変化します。 建物は劣化しても、建物の周りを覆う樹木が補います。大きく育った樹木がマンションの足元を隠し、顔を挙げると建物は見え隠れしているといった景観は美しいものです。
買おうとしているマンションが竣工して日が浅い場合は実感がないはずですが、中古マンションなら既に建物の劣化を覆い隠していることでしょう。そのような物件なら築40年になっても古ぼけた印象を放つことはないものです。
「美しく年を取る」をマンションに当てはめると、こういうことかもしれません。
味のあるマンションは価格も高い
古くなって磨きがかかったとか、風合いが変わったなどという表現がありますが、鉄筋コンクリートのマンションが古くなって味わい深くなるには、外装の材料の選定が決め手になるでしょうか?
ともあれ、樹木が大きく成長し、春の見事な桜、初夏にかけて芽吹く新緑、秋に色づく紅葉と形容されるようなマンションは価格も高いものです。
というより、買いたい・ここに住みたいと多くの人々が感じるマンションは「嫁一人に婿5人状態」になって高い価格が維持されるのです。
上記の4つの物件をひとつひとつデータを紹介することは致しませんが、築30年を優に超えている広尾ガーデンヒルズは販売中の近隣の新築と同額で売買が成立、赤坂・六本木の高級マンションの中から築10年程度の新しいマンションと比較しても、広尾ガーデンヒルズはこれに並ぶ価格で取引が成立しています。
広尾ガーデンヒルズは設備を比較すれば、新築マンション、中古でも10年そこらのマンションに比べてば明らかに劣ります。
しかるに価格が並ぶのは、駅に近くて高台にあるというだけでなく、敷地内の庭園、樹木、植栽が生み出している環境、言い換えれば、自然の美観が圧倒的に勝るからです。
マンション選びは、立地は無論、そのマンション開発が生み出す将来価値にも注目するべきなのです。繰り返します。高木・中木・低木、草花の外構計画(ランドプラン・ランドスケープ)が重要なアイテムになることを覚えておくといいでしょう。
買ったマンションの樹木が10年、20年経てどう育ち、味が出て来るのかを想像してみましょう。