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第36回 契約トラブルに巻き込まれないために

三井健太
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【契約トラブルに巻き込まれないために】

 

2015年秋に発覚した、横浜市の「杭工事欠陥マンション(傾斜マンション)」事件。全棟建て替えとなった、この重大事件とは別に、最近マンション購入者を困らせる問題が頻発。筆者に届くご相談も契約上のトラブルに関するものがとみに増えています。

 

本稿は、マンション売買に関するトラブルの被害者にならないための方策について書きました。

 

 

●トラブルの事例集

最近関わった事例から5点を紹介します。

 

*事例① 強引な営業手法で契約を誘引・・・契約は1日待って欲しいという買い手の要望をはねつけ、自宅まで印鑑と通帳を取りに行かせて売買契約の締結まで追い込んだ営業マン。

 

*事例② 説明の欺瞞による顧客誘導・・・分割分譲の1期に希望の住戸がないので今回は見送るという買い手を、次期は価格が大きく上がる予定との説明によって希望と異なる住戸で契約させられた。ところが、ふたを開けると価格は同面積で20万円しか違わなかった。その住戸に契約変更を要求したが一切応じてくれず、そのうちに希望住戸も他の買手と契約してしまった。

 

*事例③ 商談順位一番の買い手を裏切り後順位の買い手と契約・・・中古マンションの売買において、売主の言い値そのままに購入意思を明確にした後、住宅ローンの事前審査も通り、あとは契約締結の日時を決める段になったにも関わらず、後順位の申込者と契約をしてしまった。仲介業者は、売主が買い手を選んだと言い訳。理由は不明。

 

*事例④ 近隣の新たなマンション建設で日照被害・・・契約から3か月もしないうちに近隣にマンション建設の告知。その計画を売主は知っていた可能性が高いのに説明は欠落していた。契約の解除をしたいなら手付金は没収と言われた。

 

*事例➄ 土砂災害危険区域の説明が欠落したままで契約・・・物件の近隣エリアが危険区域であったが仲介業者は確認を怠り、重要事項説明書に記載していなかった。後日そのことに気付いた買い手が解約を要求し、最後は売主も応じたが、ストレスに苦しめられ、時間もかかった。

 

●契約上のトラブルで勝てない買主

上記の事例➄は、最終的には無事に無償解約に至ったので、どちらかと言えば例外に近いものです。というのも、ほとんどのケースは買い手の泣き寝入りになるか、手付金の放棄かのどちらかになってしまうからです。

 

デベロッパーにせよ、仲介業者にせよ、マンション販売に関わるプロは宅建業法などの法律を遵守しています。不動産業は別名「クレーム産業」と卑下、もしくは揶揄されて来た歴史を持っているだけに、いわゆるコンプライアンスに関しては昔から堅い業界です。

法すれすれの仕事(主に営業)は存在するものの、一線を超えることはないのです。トラブルの元になりそうなことは、必ずどこかに表記していて、そこをよく見なかった買い手が悪いという結末になりやすいのが現実です。

 

事例④の日照被害でも、商業地には日影規制はないので、買い手は新規のマンション建設を反対できないことはもとより、購入したマンションの売主に対して「そんなの聞いていない」とクレームをつけたとしても、「近隣の環境は、合法的建築物によって将来変わる可能性があります」という重要事項説明書内の文言を指して対抗して来ます。

 

事例②の第2期の価格が上がるという説明も「あくまで予定なので、変わることもあります」と逃げられたのです。担当者が、「具体的に〇〇〇万円上がる」と言った覚えはないと白を切るばかりの卑怯さを平気で通す始末。

 

しかし、価格表などのコピーをくれたわけでも、ボイスレコーダーで証拠の声を記録していたわけでもないので、最後は泣き寝入りです。

 

事例①の場合も、契約書に記名・押印してしまった以上、法的にはどうしようもないのです。

 

つまり、まともな方法(正攻法)では勝ち目はないと言わざるをえないのです。筆者の経験では、法律論争でない世界に売主を引きずり出すことで買い手の損害を最小限にすることは可能なケースも少なくありません。

 

 

●買い手勝訴の判例 :契約時の眺望説明と完成後の実態が違った

青田売りマンションの場合で、完成後の状況を説明する義務が売主にあるとし、眺望がマンションの完成前に受けた説明と違っていたため争いになった事案において、売主には手付金返還、損害賠償の支払義務があるとされた事例(京都市)があります。

 

「眺望を重視する意向を伝え、6階の居室について、細かい説明を求めた。これに対し、担当者は、部屋の間取図を見せながら、本件マンションからは二条城が見えること、隣地には5階建てのビルがあるが、6階の本件居室からは視界が通っていること等を説明した」

 

ところが、「マンション竣工後の内覧会において、居室の窓からの視野は、隣接ビルのクーリングタワーに占められ、窓に接近しないと二条城の緑がほとんど見えない状態であることが判明した」

 

買主は「契約違反であるとして本件売買契約を解除し、売主に対して手付金の返還及び損害賠償を求めて提訴した」のです。

 

判決は、「未完成物件の売主は、販売にあたって完成後の状況を、実物を見聞きできたのと同程度にまで説明する義務がある。本件居室の購入にあたり、買主が眺望を重視していることを売主においても認識し得たのであるから、本件居室のバルコニー、窓等からの視界を遮るものの有無について調査、確認して正確な情報提供をすべき義務があった。しかし、本件居室においては、完成後の状況がパンフレット等及び事前の担当者の説明と明らかに異なり、そのような状況について説明を受けていれば、買主は購入しなかったと認められるので、買主は本件売買契約を解除でき、売主は手付金返還及び損害賠償の支払義務がある」というものとなったのです。

 

この事件は稀有なものです。普通は「眺望の悪化の程度が社会通念上、一般に受忍すべき限度を超え、法的に保護されるべき利益を不当に侵害したとは認められない」と訴えが退けられるのです。

 

●「こんなはずではなかった」の数々

契約してから気付き「しまった」では遅いので、注意すべき点をお伝えしましょう。

 

①電線の位置・・・電線の位置を外観パース(完成予想図)に書き込んでいる例は見たことがありません。完成済の物件では起こらないことですが、完成内覧会でリビング正面に無粋な電線が走っているというのでは、興ざめというだけでなく価値も下がるというものです。

 

価格表と間取り図ばかりに集中すると、気付きにくい問題です。

 

②下がり天井の高さと幅・・・飾り天井として美しいものは別ですが、単に排気ダクトのためや大梁のために下がっているという天井は、でこぼこし、美しいものではないだけでなく、圧迫感となって快適性を損なうものです。

 

下がり天井の位置を平面図の点線並びに数字の表示によって確認することはできても、立体的にイメージするのは普通の買い手にとって至難のことです。

 

しかし、例えば4.5畳大の洋室の真ん中あたりに、幅60センチの下がり天井が40センチも降りて来るようであれば、立面図はちょうど凹の文字に似た部屋となるのです。梁下寸法は2000ミリ前後しかありません。その圧迫感は尋常でないのです。

 

下がり天井の位置が部屋の隅にある分には、家具の高さを注意すればすみますが、どのあたりに、どのくらいの幅で下がっているかを平面図で確認し、かつ立面図を描いてもらうことが重要です。

 

③エントランスホールの天井高・・・高級マンションのはずなのにマンションの顔たる玄関が貧相だと怒っていた買い手がありました。 低層住宅街なので全体の高さが規制されている中、エントランスを2層引き抜けにするなどはできない相談だったのかもしれませんが、第一印象で大いに落胆するマンションとなっていました。

 

仮に、そうであることを最初から分かっていたら買わなかったかどうかは断定できませんが、優越感を味わいたい志向が強い人は気を付けたい点です。

 

④玄関ドア上部の天井高・・・各戸の玄関も同様です。ここは殆んどのケースで大梁が走っている場所ですが、中には梁下のドア高が低く、とても狭苦しい印象の玄関になっている場合があるのです。新居の完成を楽しみにしていた買い手を落胆させる残念な設計です。

 

➄玄関側の寝室の採光・・・田の字型と言われる間取りには玄関側に寝室が2つレイアウトされています。 その寝室が北向きであっても窓が大きければ外光が十分に入って来るのですが、昼間でも照明が要るというケースの方が少なくありません。

 

サービスルームという表示なら、法的な採光基準に満たさない「納戸」扱いになりますが、普通に洋室と表示されてあれば、最低限の光は入ることを意味しています。

 

問題は、最低限しかないという点です。目の前にエレベーターがあると、採光基準を満たさなくなるので、窓を斜めに取ってエレベーター塔を避けるのが常道ですが、それでも窓の正面にあると暗い感じは抜けきれないのです。 できたら、斜め窓の洋室がある住戸は避けたいですね。

 

➅ルーフテラスの出入り(またぎ高)・・・ルーフテラス(バルコニーと表現する図面が多い)は、上部に庇がないため、雨の吹込みを防止するために室内の床とテラスをバリアフリーにするわけにいかないのです。 つまり、床からコンクリートを何十センチか立ち上げてあります。

 

問題はその高さです。立ち上げられた部分をまたがなければ出入りができないので、不便です。高さが浴槽と同じ45㎝程度なら許容範囲ですが、60cmも70cmもあったら、窓のそばの室内と場合によってはテラス側にも常にステップ(踏み台)を置かなければなりません。

 

そんな不便なテラスでも、専有面積の同じ他の住戸より何百万円も高く販売されます。やりきれませんね。図面集には必ずまたぎ高が表示されています。見逃さないようにしたいものです。

 

⑦エレベーターに接する寝室・・・2LDKタイプに多いのですが、エレベーターに接する住戸があります。その住戸は、エレベーターシャフトに接する面をトイレや浴室等の水回りで固め、寝室は配置しないのが常識になっていますが、最近、寝室がべたづけという間取りを発見しました。

 

言うまでもなく、壁を二重にするなどの防音対策を施していることを確認できたのですが、それでも完璧な防音はできない懸念があるので注意しなければなりません。

 

⑧上下階・左右の音・・・他の住戸からの音漏れや音の伝播は、残念ながら完全に防ぐことはできません。住まい手の生活ぶりによって異なるので、受忍限度を超えることもあり得るのがマンションであると覚悟しなければならないのです。

 

安普請の賃貸マンションや木造アパートに比べれば、遥かに性能は優れていますが、期待度が大き過ぎると落胆の度も大きくなります。

 

入居したら、向こう三軒両隣、更に上下の隣人に挨拶することをお勧めします。顔を見知っているだけでも、お互いにトラブルは予防できるものだからです。

 

 

 

●後悔しないために

今後の商談では、念のためボイスレコーダー(携帯電話の機能も使える)を持参しましょう。そして、声、メール、メモといった証拠になるものを残すようにすることが大事です。

 

「言った・言わない」の問題が多く、結局は泣き寝入りになりかねないからです。

まさかと思うようなトラブルが、相手が大手業者であっても起きます。予防のためにお勧めします。

 

また、営業マンに何かを強要されてお困りのときは「親戚に詳しい者がいるので聞いてから返事します」と一旦かわしてください。ご相談くだされば、にわか親戚の筆者が即日または翌朝までにご返事します。

 

不動産って、そんなふうに警戒しつつ買わなければならないのかと、暗たんとした気分になるかもしれませんが、すべては安心・安全な取引のためです。

 

●最後の自衛策は「少額手付」

何処が問題かが分からないまま契約に至ってしまう。若しくは、これで大丈夫と慎重の上に慎重な態度で契約に至りそうなときでも、「石橋を叩いて渡りたい」人は、「少額手付け契約」を最後の砦にしましょう。

 

そうしておけば万一の場合も、最小限の損害ですむのですから。

 

筆者に届くご依頼の中に、最近とみに増えていると感じているものがあります。

それは、理由は様々ですが「売買契約をキャンセルしたい」というものです。

 

契約キャンセルは、手付金没収(放棄)という痛みを伴います。5000万円のマンションなら500万円というのが一般的な手付金の額です。大抵これを捨てるしかなくなるのです。

 

解約して手付金が戻るのは特約が付いている場合だけで、一般的には「ローンが不承認になったとき」と「自宅が売れなかったとき」の二つがあります。

 

「転勤が急に決まった」は自己都合の範疇に入るので、業者によっては無償解約に応じてくれる例もありますが、原則は無償解約とはなりません。

 

●解約したいと思う事情・理由

さて、解約したいという理由の多くは「見学から契約までのスピードが早過ぎ、じっくり考える間もなく決断を迫られ契約してしまったが、とても後悔している」というものです。

 

どのような物件でも完全無欠はなく、どこかしら気に入らない部分、欠点、短所が見られるもので、そこは妥協や軽視の結果の決断となるのが現実なのです。しかし、他人から見れば「そのくらいのこと」でも、一旦は「仕方ないか」と自分に言い聞かせて契約まで進んだものの、あとで「やはり我慢できない」と思い直したりするのですね。

 

また、「契約前には気づかなかった欠点」が契約後にクローズアップして来て「いやだ」となるケースも見られます。担当営業マンから説明はなかったので「聞いていない」とクレームをつけると、「図面集に書いてあります」とかわされ、確かに良く見れば小さな文字で表記されています。よく見なかった買い手が悪いと言わんばかりの対応に腹が立っても後の祭りというわけです。

 

●悩んだ末の契約をするときの自衛策

解約には痛みが伴います。買い手の一方的な都合で解除を申し入れれば「手付金の放棄」また「違約金の支払い」が必須となるからです。

 

違約金の最高額は物件価格の20%と法が定めています。手付金も20%を超えて受け取ることは禁じているので最高でも20%ですが、多くのデベロッパー(売主)は10%を買主に求めています。

 

契約時には「そういうものか」と特に疑問を挟むことなく、売り手の言いなりになって手付金を払ってしまう買い手が大半ですが、契約条件は交渉の結果で決まるのが基本なので、言われるままに従うこともないのです。

 

「それではお売りできません」と強気の売主もないことはないのですが、大抵は買主の要望を聞いてくれます。

 

今、まさに契約寸前というとき、少しでも気になる点(納得がいかない点・気になる点)があったら、手付金は可能な限り減らすことが大事です。

 

短い時間で契約に進んでしまったとき、反対に悩み抜いた挙句に押し切られて契約に至ったときなどは特に重要な自衛策になります。

 

5000万円の10%ではなく、5%の250万円、もっと下げて100万円くらいに抑えるのが賢明と言えましょう。

 

「頭金は直ぐに揃わない。100万円ならすぐでも大丈夫だけど」などと切り出して交渉をスタートするのがコツです。

 

十分に検討した。疑問は解けた。これで問題は残っていないはずだ――仮にそう思っても何があるか分からない。「念には念を入れよ」と言うし、「石橋を叩いてもなお渡らないくらい」の慎重さがあって悪くないということですね。

 

「自分の迷いを断ち切るために大きな金額を納めてしまおう」という考え方もないわけではないですが、これは営業マンの殺し文句に過ぎない。筆者はそう思います。

 

2016年の今、マンション市況は難しいときに当たっています。それだけに自衛の策として「少額手付」で契約されるようお勧めしたいと思います。無論、何事もなく新居で快適な暮らしができることが一番ですが・・・

 

 

●最後に:手付金保全は諦める

新築マンションを購入して支払った代金の5%を超える場合は、国が指定した保証会社または銀行が代金の全額を引き渡しまでの期間、万一の返還を担保(保証)してくれます。

 

逆に言うと、5%以下の支払に関してはどこも保証してくれません。

 

万一の返還とは、売主や施工ゼネコンが倒産してしまったような場合を想定しているのです。要するに、残代金決済と同時に引き渡してくれるはずだった建物が自分のものにばらないと分かったとき、支払い済みの代金の回収を確実にするための制度で、「手付金等保証制度」と言います。

 

少額手付の契約には、手付金が保全されないということを承知しておく必要があるということなのです。二者択一ということになりますが、売主の財務基盤がしっかりしていれば心配はないでしょうが、念のために付言しておきます。

 

 

 

 

終わり

 

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