10年で半値になるようなマンションを買ってしまったら、「賃貸マンションに住んでいたほうがましだった」などとなる。その結果を後悔するか否かは個人差があることと思いますが、できたら極端な値下がりはして欲しくないと考えるのが普通の感覚でしょう。
本稿は、極端なことにならないためのお話です。
実名をここで述べることは差し控えますが、地域の平均を大きく下回るような値下がりマンションはたくさん存在します。値が下がりにくい東京圏においても少なくないのです。
●リセールバリューの観点はなぜ必要?
将来のことは誰にも分からないのですし、売却するかどうかも分からないのに、将来のリセールバリューを論じるのは「絵に描いた餅」になりかねないというご批判もいただきましたが、将来のことが分からないからこそ、いつでも処分が可能な、言い換えると資産価値の下落リスクが小さいマンションを選択するべきだというのが私の主張です。
下落リスクの低いマンション、その条件はいくつかありますがそのひとつは立地条件です。
購入時の価格から下がらない、むしろ値上がりするマンションの立地条件はと問われると、都心にあるとか、駅に近いといったことになります。地域的には人気沿線や東京都内などの限られた物件になります。
しかし、現実問題として郊外や地方都市を選択するしかない人はどう考えたらいいのでしょう。都心の一等地のマンションは中古になっても値下がりしないが、郊外のマンションは必ず値下がりするような言い方をされたら、きっと気分を害することになるでしょう。
埼玉県内に勤め先があるので自宅も県内に構える方が良い。そのような人は勿論たくさんいるわけで、埼玉県に住み東京都心に通勤する人ばかりではないのです。それも承知しています。
そのような事情にある人は、その中でも可能な限り値下がり率の低い物件を選択するようにしたいものです。
●マイホームには金銭で測れない価値がある
非難を恐れず言えば、郊外や地方都市のマンションは、最初から価格下落のリスクを抱えた物件です。しかし、そのようなマンションを選択するしかない人、例えば、学校も勤務先も地方にあるなどの人のことですが、ここで、「値上がりしないと分かっているマンションを購入する」人のために補足しておきたいと思います。
マンション購入には、経済的価値だけではない無形の価値があるからです。
例えば、郊外に親が住んでいたら、その親の近くに住むことで親孝行ができるかもしれません。
山や森、野原、河川など自然の姿が残る郊外に住んだら、子供に命の大切さを教えることができるかもしれないし、クルマの往来などを気にしないで走り回る元気な子供を育てることに役立つでしょう。
都心なら持てないクルマが、駐車料金が安い郊外なら持てるので、家族でドライブを楽しむ機会も増やせるかもしれません。
都心から離れていると通勤は痛勤になりかねないが、その代わりに休日はONとOFFの完全な切り替えでリフレッシュができることでしょう。
このようなメリットは金銭の多寡では測ることができません。ある知人は、郊外に移転した私立の女子高に子供を入れるのを機にマイホームを郊外に求めました。そのおかげで子供は部活にも勉学にも励むことができ、高校3年間を有意義に過ごすことができたそうです。
このような例がたくさんあると想像します。これらは皆、経済的尺度では測れないメリットです。幸福と言い換えても良いでしょう。たとえ何千万円の損をしても、後悔することはない価値があるのではないでしょうか。
もちろん、これは賃貸住宅でも実現可能です。しかし、賃貸住宅では全く別の住まいを選択したはずですから、その選択の是非は別の議論になります。
●値下がり覚悟で買う場合の割り切り方
さて、話を元に戻しましょう。
購入したマンションが、10年しか経っていないのに半値になってしまい、売りたくても売れない事態になる場合があります。
10年経過では住宅ローンの残債が大きく、売却して得られる金銭だけでは弁済ができない、手元の預貯金には手をつけたくない。このような困った事情を抱えている人は多数潜在しています。
いつなんどき売却の必要があるか分からない、計画通りに行かないのが人生、そんなことを思うとき、マイホームが大きな障害になるかもしれない。このように覚悟して購入するとしても、その場合の考え方をお話ししましょう。
それは、次のような割り切り方です。
売却が5年先かもしれないし、10年先かもしれませんが、ここでは20年間の例を挙げることにします。
①先ず、20年間、賃料を払ったつもりで20年の住宅ローンを返済するのだと考えます。(20年ローンの場合、毎月の返済額は、同程度の条件のマンションの賃料とほぼ同額になるケースが多いはずです。ローンのシミュレーションと、賃料相場を調べて比較してみて下さい。管理費等のランニングコストも概略で計算に入れておきましょう)
②月々の賃料とローン返済金額がほぼ同額の負担であるなら、マイホーム・我が城であることの満足感だけでなく勝るものは多いはずです。物差しで測ることができない、精神的な利益を得ることができることを意味します。
③経済的には以下のように考えます。
20年後、住宅ローン完済。仮に3000万円で購入したマンションが、そのとき僅か1000万円でしか売れなかったとしても、1000万円の手元代金は儲けです。2000万円なら望外の喜びなどと考えます。
ただし、これは住宅ローンを20年で組んだ場合ですから、もっと長い償還期間を選択した場合は、20年後に売却するときに残債を銀行に返済しなければなりません。
10年後に売却することになったときは、もっと残高は多いわけです。従って、できるだけ短く組む方がよいのは言うまでもありません。
何年か先に1000万円で売れたものの、ローン残が1000万円では、手元に1円も残らないことになりますから。
10年後、20年後に果たしていくらで売れるかは予想が困難です。もっと先の30年後ならどうかとなると、管理・メンテナンス次第ということもあるでしょう。築20年くらいの中古マンションを購入した人なら、30年後は築50年のスラム化一歩手前になってしまう不運なことも想定できます。
しかし、そうであるとしても土地付きマンションなら、売却額がゼロ円ということはないはずです。少しでも手元に残れば、精神的利益と金銭的な利益の両方を手にすることが可能なのです。
●儲けの出ない不運なケースとは?
上述のお話は、20年以上先の住宅ローンが残っていない状態をイメージしています。残っていたとしても僅かという前提です。
ところが、現実は5年先の売却かもしれません。ここで、ある実話をご紹介します。
転勤で地方都市に移住した折に念願のマイホームを購入した人がいます。仮にAさんとします。Aさんは、それまでの狭くて古く、綺麗とは言えない社宅を脱出したのです。ところが、入居して3年で再び転勤となったのです。
そこでマイホームを処分することを検討したのですが、何と購入価格の30%ダウンという査定結果に愕然としました。購入時に入れた頭金30%が吹っ飛ぶ計算です。つまり、1円も儲けがない結果になりそうでした。
3年間のマンションライフは快適でした。家族も幸せそうでした。その精神的利益は測りしれないと言えますが、「この3年間、賃貸住宅にしておけば、頭金を失うことはなかった」とAさんは後悔したのでした。しかし、後の祭りです。
このようなケースは東京圏でも数多くあります。それでも必要に迫られたら、仕方なく儲けゼロで住み替えを決断しているのが実態です。しかし、できたら避けたいこと、そう思うのが人情というものでしょう。
Aさんの話に戻します。Aさんは賃貸も検討しました。幸い、毎月のローン負担分くらいの賃料が楽に取れる見込みでした。
しかし、Aさんはショックでした。苦労して貯めた頭金でしたから、次にもう一度マンションを購入するときの頭金を今から貯めるのは果たして何年かかることか、全く自信がありませんでした。所得が伸び悩んでいたこともありましたし、子供の教育費がかかる年齢に近づいていたことも理由ですが、そもそも貯蓄があまり得意な家庭ではなかったからです。
将来、賃貸するマンションのある都市に戻って終の棲家にするつもりもありません。好きな街でしたが、夫婦とも故郷ではなかったからです。できたら、次の転勤のときには転勤先に関わらず東京近郊に購入したいと考えていたのです。
しばらく貸しておいて、折りを見て売却するという選択肢も浮かんだそうです。しかし、相談を受けた私は思い切って売却を勧めました。というのも、売却金額が更に下がりローン残債を下回るような事態になったら、銀行との清算に当たって持ち出しが必要になるからです。
ローンは返済していくうちに残債務は当然ながら減っていきますが、そのスピードに加速がつくのは後半です。最初の10年~15年くらいまではあまり減りません。その減り方を超えるカーブで売値が下落する恐れがありました。
助言する私としては、人さまの財産にケチをつけるような言い方に抵抗がありましたが、下落の懸念がないと断言できるマンションではなかったからです。いえ、マンションはとても立派な建物のようでした。ただ、立地条件に疑問があったのです。
もし、悪い予想通りになったら再び貯金を失くすことになりかねません。それを嫌って先送りすれば、住宅ローンを定年までに終わらせるような計画も立てにくいことになりそうです。
築3年と新しい物件なので、私は査定価格を大幅に超える高値で様子を見ることを提案しました。半年間、空室のままとし住宅ローンを払い続ける前提です。結果は、5か月後に買い値の15%ダウンの金額で売却に成功しました。
5か月分の住宅ローン合計が50万円くらいでしたから、その分を計算に入れても嬉しい結果となりました。仲介手数料を払っても手元にはいくらかのまとまった金銭が残ったのです。
この例は30%ダウンの数字から出発していますが、他の事例では入居後10年経って、価格が半分以下になったという事例がごく一般的にあります。
お答えはケースバイケースですが、これから購入するという人へお伝えしたいのは、やはり「できるだけ資産価値の下落リスクが小さいマンション」を選択するべきということです。
どこの地域で購入するにしても、「より価値あるマンション」、「値下がり率が小さいマンション」の目利きこそが重要ということになるのです。
完