実名をここで述べることは差し控えますが、地域の平均を大きく下回るような値下がりマンションはたくさん存在します。値下がりしにくい東京圏においても少なくないのです。そのようなマンションを買ってしまったら、結局どういうことになるのでしょうか?
例えば、10年で半値になるようなマンションを買ってしまったら、「賃貸マンションに住んでいたほうがましだった」などとなりかねません。その結果を後悔するか否かは個人差があるかもしれませんが、できたら極端な値下がりはして欲しくないと考えるのが普通の感覚です。
本稿は、極端なことにならないためのお話です。
目次
マイホームは何のために求めるのか
賃貸にせよ分譲にせよ、住まいは生活の基盤として必要不可欠なものです。多言は無用と思います。
仕事に行くための家、学校に通うための家、ときどき親の家に行くのに都合の良い家、家族で休日を楽しむための拠点としての家、趣味やスポーツを楽しむための家。家族がそれぞれに心地よく暮らすための家など。
こうした暮らしの拠点として選んだ住まいに誰もが居住しているはずです。
しかし、何年かすると暮らしにくくなります。不都合が発生するのです。典型的な例は広さの不足です。子供ができて手狭になった。だから、広い家に住み替えたいという動機が発生します。
実話に基づいて考えてみます。
Xさんは住み替えに当たり、はじめは賃貸住宅を探しましたが、家賃のあまりの高さを知り、これなら買ってしまった方がトクなのではないか。そう考えてマイホーム探しを始め、中古マンションを購入しました。そこに8年居住し、このたび、転勤を機に売却をすることにしました。
ところが仲介業者の査定を聞いてびっくりしました。まだ10年も経っていないのに購入価格の半値に近い安さだったのです。自己資金10%住宅ローン90%で購入していたXさんは、8年で20%は減ったものの、売却に伴う銀行清算(ローンの残高の一括返済)のためには、購入額の20%もの金銭を別途用意しなければなりませんでした。
Xさんは売却を諦めて賃貸することにしましたが、立地条件が良いとは言えない物件だったため、高い賃料は取れず、毎月のローン返済額に届きませんでした。しかも借り手が決まるまで2か月を要したため、その間のストレスも小さくなかったのです。
2年か3年経って、今の居住者が転居してしまったら、次の借り手を探すのにまたまた苦労するのだろうか。そんな心配が残り、購入したマンションがⅩさんの重荷になっています。
値上がりは期待していなかったものの、まさか半値になるとは思わなかった。購入時のセールスマンの話でも「10年で20%くらい覚悟してください」だったはず。そんな恨めしさと後悔がXさんを苦しめています。
マイホームには金銭で測れない価値がある
非難を恐れず言えば、郊外や地方都市、東京都内でも一部地域のマンションは、最初から価格下落のリスクを抱えているものが少なくありません。
そこで、そのようなマンションを選択するしかない人、例えば、学校も勤務先も郊外や地方にあるなどの人のことですが、ここで、「値上がりしないと分かっているマンションを購入する」人のために補足しておきたいと思います。
マンション購入には、経済的価値(資産価値)だけではない無形の価値があるという視点です。
例えば、郊外に親が住んでいたら、その親の近くに住むことで親孝行ができるかもしれません。親との同居が実現でき、親の終末に当たったとき、それまでできなかった孝行をできるという人もあるでしょう。
また、親の近くに居ると、子育ての支援を頼めます。それが、妻の仕事の継続にどれだけ役立っているか分からない。そう言って、郊外のマイホームを喜んでいる人もあるかもしれません。
山や森、野原、河川など自然の姿が残る郊外に住んだら、子供に命の大切さを教えることができるかもしれないし、クルマの往来などを気にしないで走り回る元気な子供を育てることにも役立つでしょう。
ある知人は、郊外に移転した私立の女子高に子供を入れるのを機にマイホームを郊外に求めました。そのおかげで子供は部活にも勉学にも励むことができ、高校3年間を有意義に過ごすことができたそうです。
都心なら持てないクルマが、駐車料金が安い郊外なら持てるので、家族でドライブを楽しむ機会も増やせるかもしれません。
都心から離れていると通勤は痛勤になりかねないが、その代わりに休日はONとOFFの完全な切り替えでリフレッシュができることでしょう。
このような例がたくさんあると想像します。これらは皆、経済的尺度・金銭の多寡では測れないメリットです。幸福と言い換えても良いでしょう。たとえ何千万円の損をしても、後悔することはない価値があるのではないでしょうか。 もちろん、これは賃貸住宅でも実現可能です。しかし、賃貸住宅では全く別の住まいを選択したはずですから、その選択の是非は別の議論になります。
リセールバリューの観点はなぜ必要?
将来のことは誰にも分からないのですし、売却するかどうかも分からないのに、将来のリセールバリューを論じるのは「絵に描いた餅」になりかねないというご批判もいただきましたが、将来のことが分からないからこそ、いつでも処分が可能な、言い換えると資産価値の下落リスクが小さいマンションを選択するべきだというのが筆者の主張です。
自身の経験でも、想定外の理由で住み替えなければならないことも起きる。それが人生というと大仰ですが、自宅マンションは大切な個人資産なのですから、いつでも処分が可能な価値あるものを選んでおきたいものです。
これは、筆者の変わらぬ持論です。
下落リスクの低いマンション、その条件はいくつかありますが、その中で最も影響の大きいものは立地条件です。
購入時の価格から下がらない、むしろ値上がりするマンションの立地条件はと問われると、都心にあるとか、駅に近いといったことになります。地域的には人気沿線や東京都内などの限られた物件になります。
しかし、現実問題として郊外や地方都市を選択するしかない人はどう考えたらいいのでしょう。都心の一等地のマンションは中古になっても値下がりしないが、郊外のマンションは必ず値下がりするような言い方をされたら、どれだけ切ない思いになることでしょう。しかし、あえて申しましょう。
東京でも八王子市のような人口60万人の大都市なら市内に住みたい人は多数いるに違いありません。同様に、埼玉県内に勤め先があるので自宅も県内に構える方が良い。そう考える人は勿論たくさんいるわけで、東京都心に通勤する人ばかりではないのです。
しかし、郊外の都市では、都心や準都心の人気の街ほど高い価値で処分ができるわけではありません。 そこで、その地域で一番の物件を選ぶなど、可能な限り値下がり率の低い物件を選択するようにしなければなりません。
値下がり覚悟で買う場合の割り切り方
さて、話を元に戻しましょう。
購入したマンションが、10年しか経っていないのに半値になってしまい、売りたくても売れない事態になる場合があります。
10年経過では住宅ローンの残債が大きく、売却して得られる金銭だけでは弁済ができない、手元の預貯金には手をつけたくない。このような困った事情を抱えている人は多数潜在しています。
いつなんどき売却の必要があるか分からない、計画通りに行かないのが人生、そんなことを思うとき、気楽に転居できる賃貸住宅と違って、マイホームは行動を妨げる大きな障害になるかもしれない。
このように覚悟して購入するとしても、その場合の留意点をお話ししましょう。留意点というより一定の覚悟なり心構えと言う方がよいかもしれません。
それは、次のようなものです。
売却が5年先かもしれないし、10年先かもしれませんが、ここでは20年後の想定でお話しします。
- 先ず、20年間、賃料を払ったつもりで20年の住宅ローンを返済するのだと考えます。(20年ローンの場合、毎月の返済額は、同程度の条件のマンションの賃料とほぼ同額になるケースが多いはずです。ローンのシミュレーションと、賃料相場を調べて比較してみて下さい。管理費等のランニングコストも概略で計算に入れておきましょう)
- 月々の賃料とローン返済金額がほぼ同額の負担であるなら、マイホーム・我が城であることの満足感だけでなく勝るものは多いはずです。先に述べたように、物差しで測ることができない、精神的な利益を得ることができることを意味します。
- 経済的には以下のように考えます。
20年後、住宅ローン完済。仮に3000万円で購入したマンションが、そのとき僅か1000万円でしか売れなかったとしても、1000万円の代金は儲け、2000万円なら望外の喜びと考えます。
ただし、これは住宅ローンを20年で組んだ場合ですから、もっと長い償還期間を選択した場合は、20年後に売却するときに残債を銀行に返済しなければなりません。
10年後に売却することになったときは、もっと残高は多いわけです。従って、できるだけ短く組む方がよいのは言うまでもありません。
何年か先に1000万円で売れたものの、ローン残が1000万円では、手元に1円も残らないことになるのですから。
転勤で札幌市に移住した折に念願のマイホームを購入した人がいます。仮にYさんとします。Yさんは、それまでの狭くて古く、綺麗とは言えない社宅を脱出したのです。ところが、入居して3年で再び転勤になりました。
そこでマイホームを処分することを検討したのですが、何と購入価格の30%ダウンという査定結果に愕然としました。購入時に入れた頭金30%だったので、それが全部吹っ飛ぶ計算です。
住宅ローンの支払い分は家賃だったと思えばよいとしても、失った頭金を36か月で割ると随分高い家賃を支払ったことになると気づきました。
3年間の札幌ライフは快適でした。家族も幸せそうでした。その精神的利益は測りしれないと言えますが、「この3年間、賃貸住宅にしておけば、頭金を失うことはなかった」とYさんは後悔したのでした。しかし、後の祭りです。
10年後、20年後にわが家が果たしていくらで売れるか、その予測は困難です。もっと先の30年後なら更に難しいと言わざるを得ません。管理・メンテナンス次第ですが、築20年くらいの中古マンションを購入した人なら、30年後は築50年となり、色々悩ましい問題が発生するかもしれません。
しかし、そうであるとしても人里放れた山の中でない限り、売却額がゼロ円ということはないはずです。少しでも手元に残れば、精神的利益と金銭的な利益の両方を手にすることが可能なのです。
もし、地域一番の物件を選んでおけば、手残りは大きくなるはずです。
売らなければ損も得もない
35年以前(1985年以前)にマイホームを買った人の多くは、バブル期に大きな値上がりを体験しました。タイミングや購入した物件・場所によって差はあるものの、短期間に我が家が2倍、3倍になったことで驚いたものです。
しかし、現に住んでいる家の値段が何倍になろうと、何の得もありませんでした。むしろ、固定資産税がアップしたことで苦々しく思った人もあったのです。
一方、売却した人は、高値に驚くとともに手にした金額に喜び一杯だったことでしょう。ただし、その資金でもっと良い住まいを手に入れようとすると、郊外のまだ値上がりの波が及んでいない街へ行くほかにありませんでした。
売却した場所の近くは同じように値上がりしていたため、売却して得た金銭に(新たなローンなどで)プラスしなければランクアップした家は買えなかったからです。
反対に、バブル期に高額な住まいを購入してしまった人は、その後の極端な値下がりを体験することとなりました。
何かの事情で売りたいとなったとき、現実の厳しさにぶつかりました。売却して得る金銭では住宅ローンの残債を清算できないことを知ったからです。いわゆる追い銭が必須でした。その金額の大きいこと。結局、売却を断念した人も多かったはずです。
売却を断念した人は、含み損を抱えてしまったものの、損失が確定しないで済んだということになります。これは、売却しなければ損も得も表面化しないことを意味しています。
ここまで述べて来たことと矛盾するようですが、最悪の場合は換金を諦めるということです。といっても、そのマンションが打ち出の小槌のようにキャッシュを生み出すものであって欲しいものです。
つまり、賃貸がしやすいことが大事です。 そのためには、地域一番でなくても「駅から近い」などの条件を満たす物件を選んでおくことが必須となります。
買ったマンションが値上がりすると思い込んでいる人へ
東京圏に住んでいる人たちの中には、マンションは古くなっても値上がりするものと勘違いしている人は少なくありません。
劣化していく建物、見てくれも悪い中古マンション、それが値上がりするのは本来おかしな話です。価値は間違いなく下落するはずですが、購入時の価格以上で売れて喜んでいる人がたくさんいるという事実を知って、固定観念が出来上がったのでしょうか?
その理由と背景を正確に説明できる人は少ないのです。
筆者もお会いする人に尋ねてみますが、「地価が上昇するからですか?」などと自信なさそうに答える人が大半です。
「当たらずとも遠からず」というべきか、「それも一因には違いない」のですが、それだけではありません。
逆説的に「値下がりしなかったマンションは地価が上昇しなかったためとなりますか?」と尋ねると、「そうじゃないの?」か「分かりません」という答えが普通です。
中古マンションの値動きに影響を及ぼすもの
では、中古になっても値下がりしにくいマンションとはどのようなものか、それについて説明しましょう。賃貸の方が良かったと後悔しないための予備知識として是非、記憶に留めて欲しいと思います。
中古マンションが新築と同額で売れるということは本来あり得ないことです。築2年、3年と若い物件でも、買い手から見れば手垢がついた建物なので、性能は変わらないとしても心理的な価値のダウンが避けられないからです。
ところが、周辺の新築マンションを上回る価格で買い手がつく中古マンションは現実に多数あります。一方、冒頭で紹介したような10年も経たないのに購入時の半値になってしまうという実例も多数あるのです。
以下は、値上がりしやすいマンションの条件等について解説したものです。
(1)物件の魅力の差
値上がりするマンションの条件の第一は、周辺新築物件にない特長や利点があって、中古であることのマイナスを補って余りある物件だからです。
例えば、小型物件の多いエリアにおいて、所有マンションが大規模で様々な付加価値を有する物件であれば、その差別感や存在感が新築・中古を問わず特別なものと認定され、高い価格を付けるのです。
駅直結であるとか、駅に近い立地は便利な反面、雑多な環境である場合が多いですが、例外的に緑多い住宅街の入口にあるとか、或いは隣が大型スーパーである、大規模公園に接している、遮るものがない一面オーシャンビュー、といった格別な立地条件の物件もあります。
これらは、物件固有の条件が中古マンションの将来価値(リセールバリュー:RV)を決めるものであることを指しています。その条件をもう少し分解して説明します。
将来価値を決定する要素は、
①立地条件(利便性と環境)、②スケール(存在感)、③外観・玄関・空間デザイン、④建物プラン(共用施設、間取り、内装や設備など)、➄ブランド、⑥管理体制です。
この中で一番比重が高いのは①の立地条件なのです。
立地さえ良ければ建物は何でもいいという単純なものではないのですが、大きな要素であることは確かです。逆に、どんなに素晴らしい建物でも立地条件の悪さを補うことはできません
(2)需給バランス
当該エリアで新築の供給が殆んどないとか、あっても比較対象にならない物件ばかりという場合は、期待以上の価格になることがあります。
例えば、80㎡以上の広さを求めても、新築に70㎡台までの売り物しかないという場合や、駅近の物件を探したが、徒歩15分以上の売り物しかないというとき、80㎡以上の物件所有者、あるいは徒歩5分の物件は有利に働きます。
これらを一言で表すと、「希少価値」ということになります。
中古マンションの価格は需給関係で決まります。新築の供給が少なければ、中古が取引の中心になり、上質な中古物件は新築並みの価格になるものです。人気の高い街や駅周辺では、新築の供給が何年も途絶えていたりすると、過去の新築相場を超えてしまうほどの高値の中古マンション取引が生まれます。
また、ある面積帯の物件が稀少という場合、上述のように、その面積帯だけが高い価値をつけることもあります。
(3)価格変動のタイミング
中古マンションは、平均的には20年もすると新築相場の半値くらいになるものですが、タイミングによっては需給バランスが変わり、高値になったり安値に戻ったりするのです。
新築価格が急騰している時期に売り出すと、割安な中古に需要が向かうので、中古が引っ張り上げられる恰好となって上昇するのです。
固有の条件は「平凡」の域を出ていない物件であっても、期待できるのはこのケースです。過去にも、その恩恵に浴することができた人・物件は多いのです。
従って、売り出しのタイミングが重要と言えるのです。
ただ、市場全体で価格が上がってしまうと我が家が値上がりして喜んでも、買い替え先の物件も値上がりしている可能性が高いことを忘れてはいけません。
しかし、タイミングと買い替え先の選定によっては、恩恵に浴すことができます。例えば都心のマンションが値上がりしていても、横浜はまだ値上がり前夜ということもあるからです。
つまり、不動産は広域で一斉に値上がりすることはないのです。首都圏では、都心から南に動き、次に西へ、更に時計回りに郊外に広がる形で価格は変動する傾向があることを覚えておくといいかもしれません。
繰り返しますが、中古マンションの価格は新築価格に連動します。新築が上昇中のときは、割安な中古に需要が向かいます。
すると、やがて中古も値が上がるのです。築20年の中古マンションは新築の半値程度になるとはいえども、新築相場が2倍になっていれば、購入価格から見れば値下がりしない理屈になります。
(4)購入価格
最も大事な要素は「購入価格」です。価値に見合わない高値で購入(高値掴み)すれば、どれほど立地が良くても、また建物が立派でも将来価格は期待外れになります。
今(2022年)は高値の時期に当たっているので、例外なく高いマンションを買ってしまうことになりそうです。
反対に、底値のような時期に購入した物件なら、次の上がり相場のときに売れば、平凡な物件でも値上がり益を得ることができるのです。
最近の売却者の多くは、購入価格より売れて喜んだことでしょうし、しかしながら、それでも物件固有の格差が大きかったことは事実です。
高く売れるか、安くなってしまうかは以上のように様々なファクターが影響して来ますが、これから購入するという人へお伝えしたいのは、どの地域で購入するにしても、「より価値あるマンション」、「値下がり率が小さいマンション」の目利きこそがカギを握るということなのです。
今日はここまでです。ご質問・ご相談は三井健太の個別相談【マンションレポート10件付】までお気軽にどうぞ。