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第7回「イイトコ取りを求める愚はこうして避ける」

三井健太
三井健太

100点満点のマンションはないと知りながら、つい100点を追ってしまう人は少なくありません。今日はそんな「つい」を戒める方法について書くことにします。

 

●頭の中の理想マンションはこうして出来上がる

モデルルームというやつは、大抵、そのマンションの中で、一番見栄えのするタイプを選んで造られているものです。それを見たら、こんな部屋に住みたいなと、購買意欲をそそられますね。それが売主の狙いであるわけです。

 

しかし、予算も合わないし、現実的な部屋もあったが、まだ決めるつもりはなく、今日は勉強のために見学させてもらっただけ。これが、最初の1件目の見学。だが、ワイドでお洒落、一流ホテルのバスルームみたいな豪華な洗面室が強烈な印象として残る。妻はうっとり。
次のモデルルームは、ややコンパクトで、自分でも買えそうなモデルルームだった。だが、その分、1件目のモデルルームのような豪華さがなく、少し失望。
3件目。やはり、手が出ないタイプのモデルルームだ。洗面所も満足。今度は、憧れのオープン・アイランド型のキッチンである。友人を招いてちょっとしたパーティーを開けるなと感じる。夫婦ともに、強く心に刻まれる。
4件目。初めてタワーマンションを見る。建物本体にモデルルームが新設され、眺望体験会なるものに参加。景色がいいことに感激。その印象が強い。買うなら、ここは20階から上だなと思う。しかし、予算内の価格ではないので、諦める。
5件目。バルコニー面がワイドで、かつ、その奥行きも長い。部屋側に食い込んだ部分は3メートルもあるという。テーブルと4脚の椅子が据えてあり、休日はここでブランチとしゃれたいと思わせた。DENと呼ぶ小部屋がある。夢だった書斎になる。このままのスタイルで欲しいと夫は思う。
こうして、夫婦ともにそれぞれの理想の住まい像が頭の中で出来上がって行きます。その姿は、予算との兼ね合いから現実的でないものばかりであるため、いつの間にか、いいとこ取りの理想の住まいがイメージとして頭の中で完成します。

 

あれもこれもと、欲張っても無理。どれか捨てないと買えない。理屈では分かっていたかもしれないが、無意識に「ないものねだり」をしています。

どれを見ても、買える部屋に満足感はない。決めかけた物件もあったが、結局夫婦の意見が一致せず見送った。それからも一つ見送り、二つ見送りしているうちに1年過ぎた。1年の間に、随分勉強もした。目も肥えた。だが、いまだに購入する部屋が決まらない。夫婦は、相変わらず狭いマンションで不満な暮らしを続けている―――このような人は案外多いのです。

●見過ぎは禁物

何事もほどほどにという教訓でしょうか。「あちら立てればこちらが立たず、帯に短かしタスキに長し」――これが、マンション(住宅)というものです。雑誌の記事を見ていると、よく「待った甲斐がありました。3年探し続けて理想のマンションに出会いました」などという喜びの声が載っているときがあります。

 

本当にそうなのでしょうか。単に錯覚しているだけなのではないか。筆者には、そうとしか思えないのです。理想のマンションなど、存在しえないのだから。ただ、屁理屈を言えば、人によって理想の基準が違うから、他人が嫌だという部分があっても、当人にとっては理想なのかもしれませんね。タデ食う虫も好き好きといいますから。

 

問題なのは、あり得ないもの、あるいは予算から見て不可能と思われるような高望みをしてしまう人です。それこそ、隣の芝生が青く見えてしまう人間の習性からか、青い鳥を探して長い旅をしてしまうことに、ある種の不幸を感じます。

人間には、感情と理性があり、理性通りに行動できないことが少なくありません。分かっちゃいるが・・・というやつです。

 

理想のマンション像が買い手の頭の中にできてしまうのは何故でしょうか。

モデルルームの見学を数多くこなして目利きになったつもりが、逆の「青い鳥症候群」に陥る原因なのですが、言い換えると、現実離れしたモデルルーム展示に目を奪われ、それぞれのいいとこ取りした理想像が完成することに気付かないのではないでしょうか。

 

理想的な広さのベッドルーム、広いバスルーム、贅沢なユーティリティルーム、20畳もある広いリビングルーム、夢だったミセスデン(専用の私室というほどの意味)、フルオープンのキッチン、専用のバルコニーの付いたキッチン、休日のブランチとしゃれたいスクエアで広いバルコニー、大きな納戸、古い箪笥は捨ててもいいと思えるほどの大きなウウォークインクローゼットなど、数を見て歩けば、それぞれの特長が記憶に残るものです。

マンション会社も夢見心地にさせることを狙って展示するわけです。

 

だが、リビングルームを広くすれば、部屋は狭くなり、両方望めば、全体の面積が広いものになる。広い部屋は、その分だけ、価格が高くなります。

ところが、その広さでも予算を上げずに買えるマンションが他にあったことを思い出す。では、そのマンションを何故選ばなかったのかといえば、そちらは、西向きが嫌だったからだという。

 

先に行って、広さも満足、向きも南向きというマンションに出会ったが決めなかったという。理由は、収納が足りないからだという。そのマンションは、キッチンから直接バルコニーとユーティリティに繋がっていて、家事動線がとてもいい。これが、それまでにない理想のマンションだと強い印象を持つに至った。せめて収納スペースがあと少し広かったら良かったのに、残念とこぼす。
これを繰り返して行くと、いいとこ取りの理想像が目に焼き付いてしまう。
このような罠にはまってしまう人は意外に多いのです。本人は気付かないから不幸なことです。

 

●衝動買いも悪くはない

性格にもよるのでしょうが、高額な買い物を衝動買いすることに抵抗をあまり感じない人がいます。マンションを購入する場合でも同様で、一目惚れして初めての見学で即決してしまうタイプが現実にいるのです。

リクルート社の調べによれば、契約を決めるまでのモデルルームの見学件数は平均7件だそうです。中には30件という猛者(もさ?)もいるようです。

 

熟慮型と衝動型の、どちらがいいかは一概には言えない部分があると私は思います。

 

決めるときは案外単純なもの。「L字型のキッチンが夢だったから」とか、「バルコニーで食事したハワイのホテルのシーンを思い出して」、「リビングが明るくて気持ち良い暮らしができるような気がしたから」といった「一目惚れ」が決め手になるのも事実です。

 

その一方、条件をすべて満たしていても、好きになれない箇所が一つでもあると、「〇〇が気に入らなかった」で止めてしまう人もあります。

 

何やら結婚と同じではないかという気になりませんか?

 

熟慮した結果、一目惚れではなかった物件を選ぶと、後悔するのではないかという気がします。「考えに考えた結果で選んだのがそれかよ」などと言われないようにしたいものですね。

 

●見過ぎず、慌てずの選び方

熟慮型と衝動型には、それぞれに功罪があるようですが、タイミングよく効率的に、できるだけ理想の住まいに到達するための方法はないのでしょうか?その話を次にして行きましょう。

 

① 数をこなせばいいというものではない

様々な住宅を見て回ることは、知識を深め、目を肥やすことに役立ちます。

しかし、毎週休みの度に見て回るというのは、忙しい人ほど現実的ではないですね。見て回るうちに、これはという住まいが見つからなくて疲労してしまうこともありますし、購買意欲が薄れてしまうこともあるようです。

 

手が届かないモデルルーム、モデルハウスばかり見過ぎて、理想の住まいが残像となって邪魔し、現実的な段階になると決断が鈍るという人もあります。

 

② 場所を変えて見学する

住めば都ということが言われるように、知らない街でも住んでみると意外に馴染む街になることがあります。また、先入観から敬遠して来た場所も、現地に行ってみると意外な良さに気付くこともあります。

 

家探しは、住み慣れた場所から近い所で選択しようとする傾向がありますが、視点を変えてみたら、気に入るエリア・沿線が見つかることもあるのです。

 

③ 一戸建て・マンション・新築・中古の複数種を見学する

近頃は、マンション価格で買える建売住宅も登場しています。豪華な造りではないものの、割り切ってマンションから建売住宅に方針変更する人も多いそうです。

 

また、新築マンションの供給が大幅に減少した最近2年(2009,2010年)、マンションを欲しくても買いたいものがないということから、中古マンションへ流れる買い手も増えつつあると言います。

 

今まで考えて来なかった対象も最初から検討してみてはいかがでしょうか。きっと、見えなかったメリットや美点を発見できるかもしれません。

 

④ タイプの違うものを比較

マンションなら、小規模タイプや大規模タイプがありますし、低層と中高層、超高層もあります。一戸建てなら大規模開発のニュータウン物件とミニ開発と呼ばれる10棟くらいまでの小規模団地があります。

 

小規模マンションは、住宅街にひっそりと建ち、何となく落ち着いた暮らしを連想させるでしょうし、大規模マンションなら敷地内に公園・庭園があり、建物内部には様々な共用施設が用意され、また、コンシェルジェを置いて入居者サービスに当たるなどの付加価値もあることでしょう。

 

一戸建ての場合は、最寄り駅までの距離や勤務先まで遠いことに落胆するかもしれません。その反面、自然環境に恵まれた場所かもしれません。また、庭が広いことや駐車場の使用料や管理費がいらないことを喜ぶ結果になるかもしれません。

 

⑤ 近くのライバル同士を見学

これは、新築物件の場合ですが、同じエリアのライバル同士、類似物件を見学することも理解を早めることに役立ちます。ライバル同士は、相手を意識して自社の長所をアピールしますから、それによって互いの欠点が見えて来ます。

 

それぞれの長所、短所が価格にどう影響しているかも理解できるはずです。

 

⑥ マンションなら完成済みと未完成物件を比較

未完成マンションは、設備・仕様をモデルルームで確認することはできますが、眺望・日当たりは想像するしかないわけです。その代わり、オプションを付けたり、間仕切りの変更をする、収納スペースを拡大するといった自分好みを採り入れることも可能ですね。

 

比較して方針を定める

以上に述べたような比較をすることで、やみくもに見学してしまうような遠回りを避けることができるでしょう。

 

あえて検討対象外のものを見ることで、結果的に無駄な動きをしなくてすむということかもしれません。「急がば回れ」ですね。

 

 

終わり