ひところは、「郊外の3LDKマンションはニューファミリーと呼ばれる階層が購入する」というトレンドができあがったのでしたが、2010年ごろからでしょうか、東京では新たな潮流が生まれました。
3LDKではなく、1LDKや2LDKの比較的コンパクトな都心のマンションを購入するニューファミリーが少しずつ目立つようになっているからです。
都心は高いので、広さや間取りを妥協するということになるわけですが、こうした需要がどのくらいに広がったかは今のところはっきりしないものの、少なくとも筆者に購入相談や物件評価をお寄せ下さる人たちの中では目立つ存在になっているのです。
このような選択をした人たちには、資産価値の高い物件を選んでおけばツブシが利くだろうという思惑があるのは間違いありません。いずれ手狭になったら広い家を探せばいい、当分は間に合う。このような考え方をしているのです。
都心に購入すれば利便性を享受できるのは言うまでもないわけですが、東京都心には子育てにも悪くない環境が整っています。公園などの遊び場所だけでなく、保育所や託児所といった共働き世帯を応援する施設が多いことや幼稚園・小学校などの選択肢が広いことなど、教育環境の良さが後押しになっているようです。
この現象は、リーマンショック(2008年)以降、郊外で手ごろな3LDK以上の物件供給が大幅に減少したということとも無縁ではないでしょう。気にいったファミリー物件が見当たらず、あれこれ迷っているうちに都心のコンパクト物件に辿りついたという経緯があったのかもしれません。
2011年3月の大地震(東日本大震災)で帰宅難民になった人たちを見て、職住近接の住まいを求める潜在ニーズが加わったとも考えられます。 こうして、「ダウンサイジングで都心住まい」というトレンドが強まって行ったのです。
なぜ70㎡の声が多いのだろうか?
この記事を書いてからも、依然として70㎡を条件に挙げる買い手は圧倒的に多いことを気づかされています。
何故70㎡というのか?何故70㎡にこだわるのか? これに対する明快な答えは見つかりません。デベロッパーも70㎡(3LDK)のニーズが多いと知っており、70㎡を多く作る傾向は強いのです。
ちなみに、2017年5月のデータですが、首都圏全体の新規発売2603戸のうち、3LDKは1835戸、70%を占めています。地域別には23区が701戸/1206戸(58%)、都下は233戸/276戸(84%)、神奈川県が490戸/590戸(83%)、埼玉県は194戸/254戸(76%)、千葉県217戸/277戸(78%)です。
23区は都心5~6区も含みますから、シェアが下がるのも当然なのですが、それでも6割近いシェアを3LDKが持っているのです。
賃貸マンションも面積が50㎡台、40㎡台の2DK、2LDKが多いので、「どうせ買うなら60㎡以上、できたら70㎡あるといいな」という希望の声が代表的なものと認識していますが、これは20年以上前も同じだったと記憶しています。 しかしながら、市場ニーズとはどうやらギャップがあるようです。
広さを優先するのか? 立地を優先するのか?
インターネットで住宅探しができる時代になったせいで、首都圏のどのエリアでもSUUMOにアクセスし、3LDKとか70㎡以上とかとチェックマークを入れて検索すれば、忽ち何百戸、何千戸という物件がヒットします。
たくさんあるなあと感じる人も多いはずですが、その後に条件を絞ると希望エリアから遠ざかったり、希望エリアが消えてしまったりします。
簡単に言えば、例えば都心・準都心で買いたいが70㎡以上で、5000万円以内などと入力しても「価格未定物件」を除くと、ヒットする物件は全くないのです。
仕方なく、23区全体に拡大させるとヒットする物件は多数出てきますが、希望エリアからは離れ過ぎになってしまったりします。
仕方なく、通勤のしやすさを考えて鉄道沿線を定め、東京都外に広げてみたりします。それも、使い慣れた沿線や同方向のエリアではなく、反対方向もチェックすることで、ようやく予算も通勤圏内という条件にも合致する物件にたどり着くのです。
しかし、「やっと見つけた。理想の家に辿り着いた」という気分には遠いものです。もっと駅に近いマンションがいい。もっと都心に近いマンションがいい。本当は〇〇沿線か××沿線がいい。こんな風に思ったとき、広くて設備が良くてウキウキとしている妻を見ている夫がそこにいたりします。
やがて、気に入った物件に辿り着いて購入申し込みをしたとします。そこで、本当に良かったのか、後日何度も悩んだ過程を反芻するのです。そんな人から筆者にメールが届きます。決断にまだ迷いが残っているからです。
対話の中から、「70㎡」や「3LDK」という条件が邪魔をしていることに気付きます。家族は2人か3人、将来は4人かもしれないからと定めた条件なのです。
その条件があるために立地条件の選定に大きな壁ができてしまうのです。勿論そうでない人もありますが、少なくともご相談者の8割はそうでした。
70㎡と3LDKのタガを外すと、購入可能な物件は一気に希望エリアに近づきます。
子供に個室を与えるのは何歳なのだろう——今1歳とするなら、8年かどこらは1LDKでも居住可能だが、今が1LDKだから、せめてもう1部屋ほしいと考えるのでしょう。そして、2LDKが妥協範囲になるのです。
今が45㎡の賃貸マンションや社宅というなら、10㎡(約6帖)広い55㎡でも満足度は低くないはずです。 2LDKを買った場合、3人なら10年は住める。2人目が直ぐできて3LDKが必須になるのは10年後のことだ――そうであれば、10年後をめどに買い替えればいいのです。
買い替えに有利な物件を選ぶ
そうです。70㎡にこだわるばかりにバス便マンションを選んだり、通勤の便が悪いものを選んだりするのではなく、郊外でも人気のある街の、駅に近いマンション、人口の多い大きな街の大きな駅のマンションなど、需要の多い都心・準都心のマンションを選んでおけば、買い替えもしやすくなるものです。
マンション探しをしている人たちには、それぞれに条件や背景・事情があります。筆者自身の経験からだけでなく、過去3千人を超えるご相談者とのやり取りによって痛いほど分かります。
個々の事情に応じた助言をすることになるのであり、本稿で書いたような十羽ひとからげの単純なものばかりではないのですが、共通項として「条件の絞りこみ」が満足度を高められない要因なのではないかと思うことがあります。
誤解のないように付記しますが、マンションの価値はユーザーから見た「居住性の高さ・快適性」にあるのは言うまでもありませんが、いずれ買い替える時が来る、早いか遅いかの差です。 「長く住む」というよりは「10年前後でステップアップ買い替えを図る」という概念を持った方が良いこと、そのための条件は立地だけではないものの、立地が最も大きな位置づけとなることを改めてお伝えしようと思います。
今日はここまでです。ご質問・ご相談は三井健太の個別相談【マンションレポート10件付】までお気軽にどうぞ。