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第25回 売れ残り物件に価値はあるか?

三井健太
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売れ残り物件に価値はあるか?

 

3.11震災後の一時期を除き、最近5年余の新築マンション販売は、価格の高騰でスピードが悪化しています。 物件個々に見ていると、過熱感のある人気物件も度々登場していますが、反対に竣工時点で売れ残ってしまった物件も少なくありません。

 

今、注意しなければならないのは「物件がないから仕方ない」と、気に入らない部分が少なくない物件で妥協することです。

 

パーフェクトな物件はなく、話題になった人気マンションですら欠点はあるもので、妥協はマンション選びにつきものですが、どこをどう妥協するかは市場に物件が少ないだけに悩ましい問題です。

 

そんな現況では、建物が竣工し一部に入居者がいるマンションを検討することも多いはずです。「売れ残りマンション」について考えてみました。

 

 

●何をもって売れ残りとするか

そもそも売れ残りマンションとは、どのような状態にあるものを指すのでしょうか?

 

新築マンションの販売は、工事中に始めます。そして工事が完成するまでに販売を完了させます。例外的に建物が竣工してから販売を開始する例もありますが、ほとんどのケースは「竣工完売」、ここをマンション業者は目指します。

 

マンション業界の共通認識としては、建物竣工時点で未販売であれば、その住戸は「売れ残り」というレッテルを貼ることになるのです。

 

ご承知のように、マンション工事は超高層マンションのように何十か月もかかるものもありますが、中低層マンションでは1年以内に完成します。この期間を利用して竣工までに完売させたいと目論むのは、もちろん理由があります。次のようなものです。

 

建物が完成すれば工事会社(ゼネコン)から品物の引き渡しと交換に代金の支払いを求められます。契約時と中間時に支払い済みの分を除く残代金は、数億円、大規模マンションになると何10億円になります。

 

この支払資金は、マンションの販売代金を充当するのが普通です。

 

しかし、販売が完了していないと、購入者からの受け取る代金だけでは足りず、不足分は預金を取り崩すか銀行から借り入れることが必要になります。これは企業にとって好ましいことではありません。

 

そのほかにも竣工完売を目指す理由がいくつかあります。

 

ひとつは、管理費の問題です。半分が売れ、半分の居住が始まったときでも、管理費は半分ではなく全戸分が必要だからです。

 

半分しか入居していないからエレベーターも半日しか動かさないとか、共用部分の照明も半分は消しておく、管理人はまだいませんなどという事態を発生させるわけには行きません。

 

そこで、未販売住戸分の管理費を売主は負担します。金額は僅かかもしれませんが、数が多かったり、長く続いたりすれば馬鹿にはなりません。

 

二つ目は、商品管理の問題です。建物が完成すれば、工事中と異なり外部に設けたモデルルームを見せるだけでは済まず、実際に買いたい住戸を案内する必要が出て来ます。

 

普通は、完成後の空き部屋に家具調度品を持ち込んでモデルルームを設定しますが、見学にやって来た人の大半は別の部屋を検討することになるわけですから、どうしても候補となる住戸を、しかも複数の住戸を案内することになります。

 

そうなると、何度も複数の人の出入りが繰り返されます。結果的に、品物が傷つき汚れが着くことになりかねません。品物が誰とも知らぬ大勢の人の手垢に塗れてしまうわけです。

 

一般消費財もパッケージに収まっていない品物、例えば衣類などでは似たようなことがあるわけですが、明らかな汚れや傷がつけば売り物にはなりません。

 

マンションの場合は、傷や汚れ、色褪せなどは、軽微であればそのまま売り物ですが、その代わり価格を下げることも必要になります。

 

日当たりの良い位置に和室があれば、畳が灼けてしまいますから、その養生にも気遣います。

 

竣工後何か月も経っていたら、傷も汚れもなかったとしても、新品でなく新古品のように感じるのが買い手の心理です。 つまり、価値が下落したと感じるのです。としたら、当然ディスカウントがあるものと考えますし、売主がそこに触れなくても要求をしたくなるはずです。

 

人が住まない家は傷みやすいと昔から言われて来ましたが、通風を切らさず、カーテンなどで遮光も行い、時間が経てば埃をはらう程度の掃除も必要になることでしょう。

 

また、案内のたびに、マンションの居住者でない者が何度もエレベーターに乗って上下移動や平行移動してマンション内をぞろぞろと歩くことになります。

 

売買契約の際に、購入者から予め了解を取っているのですが、好ましいことではありません。建物竣工後の販売活動は、先行入居者に気遣うことが多いのです。

 

このような理由で、マンション販売は「竣工完売」が業界常識となっているのです。

 

 

●新築マンション売れ残りの原因

竣工までに売れるマンションと中々売れないマンションの差はどこにあるのでしょうか?それについて述べましょう。

 

 

<立地条件が悪い>

典型的な例は、駅から遠い・環境が悪いなど「立地条件」が良くないケースです。

 

駅に近くて便利、バスが頻繁に走っているから便利、どちらがいいか言うまでもありませんね。

 

後者のケースは、例え5分に1本の割合でバスが発着しているような場所でも嫌う人が多いので、中々売れないものです。

 

環境については説明の必要がありませんね。高速道路沿い、新幹線の線路沿い、工場が隣接しているか工場地帯の面影が残っている、公園がない、小学校が途方もなく遠いといったような問題物件は少なくありません。売れ残り物件でよく見られる例です。

 

 

<郊外都市の物件>

人口の多い首都圏でも、郊外のマンションはしばしば売れ残りが発生します。

 

人口が多いと断ったのも、郊外のマンションの需要は意外に少ないことを伝えたかったからです。

 

毎年、毎年あらたにマンション需要は発生しますが、数には限度があります。結婚や子供の誕生、あるいは進学などを機にマンション購入を考える家庭は、人口(世帯数)に対し、波はあるものの、毎年一定割合で発生して来ます。これが需要というものです。

 

社宅が会社の都合で取り壊しと決まったので、それを機に賃貸ではなく分譲を買おうと考える人もいたり、地方都市から東京に転勤が決まったので通勤圏でマンション購入を考える人も現れたりします。

 

需要ボリュームは、年間どのくらいあるかというと、新築マンションに限ると世帯数の高々0.5%くらいなのです。首都圏1000万世帯の合計では50,000のボリュームですが、そのうち、都心、準都心、郊外と区分すると、郊外へ行けば行くほど少なくなります。

 

郊外に住み郊外で働く人も大勢いることは確かですが、圧倒的に東京都心へ勤務する人が多いことに加え、郊外では比較的安価に一戸建てが手に入るので、マンション需要はさらに絞られてしまうのです。

 

需要が少なければ供給量によってはバランスしなくなり、売れ残りが発生しやすくなります。

 

尚、地方都市にも当てはまるのがこの項目です。

 

 

<価格が高過ぎる>

郊外都市でマンション販売が苦戦し、しばしば売れ残るのは価格の問題にあります。「そこまで出すなら一戸建てが買えるよね」という購入者心理です。これが常に壁となって立ちはだかるのです。

 

一戸建てと違い、駅の近くに建設されることが多いマンションですが、郊外都市の居住者、もしくは郊外に住みたい買い手は、その近くに職場があって車で通勤していたりもするので、駅前マンションでなくても構わないと考えるため、いくら駅前と言っても高ければ敬遠するわけです。

 

地方では一戸建てとの競争が必須なので、価格政策を誤ると大量に売れ残ってしまうのです。

 

都心・準都心でも高過ぎるマンションは売れ残ってしまう場合が少なくありません。

 

ここで言う高過ぎるという基準は、「競合する物件に比べて割高になっている」というものです。

 

マンションは唯一無二の商品のため、価値と価格の妥当性が分かりにくいのは確かです。しかし、買い手とは聡明なものです。

 

「駅3分のA物件は確かに便利でいいけれども、私の予算を当てはめると、駅から10分のB物件なら3LDKが買えるのに、Aは2LDKしか買えない」といった明確なことだけではなく、微妙な差でも順位づけする能力を持っているのです。

 

その結果、予算を増やしたり、面積を妥協したりしながら高い駅近マンションを選ぶ人は多いのですが、価格差が極端になれば便利な駅近マンションでも売れ残る場合があるのです。

 

「〇〇の割には高い」が売れ残りをつくるわけで、〇〇の部分は、「品質やブランド価値が低い割には高い」や「線路沿いでうるさい割には高い」、第三者的に言えば「場所も品質もたいそう立派だが、あの価格に手が出せる人はこの辺にはいないなあ」などと評される物件は残ってしまうのです。

 

 

<無名業者の物件>

「場所も特に悪くはないし、モデルルームを見たが大手に引けを取らない内容だった。価格も高くないようだ」といった物件が売れ残っているのを見ると、原因はブランド価値がゼロという点にあるのです。

 

「大手の物件は高いが安心料が含まれていると思っています」という感想を聞くことがありますが、無名業者の物件は、この反対評価なのです。

 

「実績・経験が少ない。大丈夫だろうか?」は、品質への疑念と不安なのです。その疑念・不安は簡単に取り払うことができません。結果的に、売主は多くの買い手候補を失い、竣工した時、売れ残りマンションを抱えるのです。

 

 

 

<戸数が多過ぎる>

ここに優良な物件があります。大手業者が売主で建物プランも良く、付加価値の多い大規模なものです。価格も適正と思われる。いや、むしろ安いかもしれない。その数500戸・1000戸――こうした物件の中に、竣工後1年以上を経過しても在庫を抱えている例が今も何件か見られます。

 

数が多過ぎたのです。多くは郊外都市に見られるのですが、23区でも都心を少し離れた区でときおり発生します。

 

立地条件が比較的良い物件でも、東京中の人が全てそこを望むわけではありません。仕事や学校や、その他の事情から人はそれぞれに生活圏を持っているわけですから、販売されるマンションがどんなに高い評判を得ていたとしても数には限りがあるのです。

 

従って、供給される数が多いと、一定期間に集められる数との差が売れ残りとなってしまうことがあるのです。

 

●時間がかかりつつ売れて行くのは何故?

売れ残りマンションでも、時間が経つといつの間にか完売となります。3年も5年も売れないという物件は殆どない(例外もある)のです。その理由に触れておきましょう。

 

ひとつは、「需要は時間とともに湧いてくる」ことにあります。一定期間に発生する需要は限られても、先に述べたように毎年、毎年あらたな需要が生まれるので、その人たちが買ってくれるということです。

 

価格を下げると売れるということもあります。

 

値下げ・値引きによって考え直す買い手もあるので、販売担当者から「価格が下がりました」や「値引きに応じます。いくらなら買ってもらえますか」などの声がかかれば、一旦見送った買い手が再検討してくれるのです。

 

安いと思ったがバス便なので止めたという人でも、さらに安くすると言われると考え直すということもあり、「より安い」魅力で売れて行くのです。

 

新規の集客においても、「価格の一段の魅力」を広告で明示することで販売が進むことがあるわけです。

 

その他、「営業部隊の強化」とか「新規供給の近隣物件が動員してくれたことによるおこぼれを得た」、「全体的な価格上昇、すなわち相場の上昇が売れ残り物件の相対的な安さを浮き彫りにした」、「当該エリアの新規供給が途絶えている」などで販売が進んで行くこともあります。

 

●売れ残り物件はリセールで苦労するか?

売れ残りが発生する理由、それが解消されていく理由などがお分かりいただけたと思います。

 

最後は、売れ残り物件を購入した場合、それを将来リセールするとき首尾よく売れるものかについて述べようと思います。

 

売れ残り物件でも、数が多過ぎて残ってしまっただけの優良な物件は苦労の度合いは少ないと考えて良いでしょう。

 

立地条件も悪くないし、建物品質等も悪くないが価格が高過ぎて売れ残ったという物件の場合で、値引き交渉に成功し、適正なレベルの価格で買えた場合は、欲張らない限りリセールの苦労は少ない(さほど安くはならない)と考えて良いでしょう。

 

苦労するのは、立地条件の良くない物件です。立地条件が悪くても構わないから買いたいという人は、予算を極端に抑えたい人なので、その願望・条件に答えられるだけの価格にしなければ売れないからです。

 

購入時も安かったはずですが、更に安くしなければ立地の良くない中古は売れないということになります。

 

中古になっても新築を超える、または新築並みの価格で取引される中古が存在しますが、それは人気沿線の人気駅・街で、かつ新築の供給(開発)が極めて困難な立地条件を持つ物件です。それと対称的なのが売れ残りマンションなのです。

 

 

 

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終わり